K. Nitta
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Rheological Characterization for Viscoelastic Solids
レオロジーは物質または材料の変形と流動を取り扱う学問 である.物体の変形や流動に関する学問は古くから弾性力学 や流体力学として存在していた.弾性論は応力とひずみが 比例するフック則を基本とする弾性固体を,流体論は応力が ひずみ速度に比例するニュートン則を基本とする粘性流体を 基礎としている.高分子物質は本質的に両者の特質をもつ粘 弾性体であるが,固体高分子のレオロジーでは,基本は弾性 論で,そこに粘性,場合によっては塑性が加わる. Leadermanはアセテートレーヨンのクリープの温度依 存性を詳細にしらべ,遅延成分を時間の対数に対してプロ ットするとき,各温度の曲線を時間軸に沿って水平に適量 移動(シフト)すれば,すべての曲線が重なり合うことを 見出した.Tobolskyらは,Leadermanの解析手法を 一般化して,時間-温度重ね合わせの原理(time-temperature superposition principle)と呼び,粘弾性関数のタイ ムスケール依存性に対して普遍的な適応性をもっているこ とを示した.この原理が単一のシフトファクターで適応で きる場合を熱レオロジー的単純(thermo-rheological simplicity)と呼ぶ.この原理は無定形高分子のような均質 な構造体に対して適用できる. この原理を利用すると,緩和時間の温度依存性を定式化 することができ,測定の時間や周波数を大幅に変える代わ りに,温度を変えることによって材料の粘弾性を幅広いタ イムスケールで評価することができ,実験データを必要な 観測範囲まで広げることができる.しかしながら,特に結 晶性高分子固体は,熱レオロジー的単純ではなく,結晶相 と非晶相で異なるシフトファクターを持つため,その解析 には,格段の注意が必要になる. レオロジー測定を行う主たる目的は,物質のもっている 特性時間(緩和時間や遅延時間)を決定することにある. 固体の場合分子の微妙な凝集状態のムラのために,この特 性時間に広い分布と多重性を有していることと,塑性変形 や非調和振動による非線形応答が発現することに注意を払 う必要がある.それ故,固体材料の特性時間を評価するに は,温度と時間のより広範囲に渡る実測データを得るよう に覚悟する必要がある.この広範囲にわたるデータの集積 は種々の測定法を組み合わせることによって達成でき,そ の結果,固体の粘弾性の実験研究は極めて多岐にわたり, 数多くの測定法が開発されている.