Case Study

Abstract

近年,河川生態系の構造及び機能を評価する方法に関 する研究が,海外では盛んに行われており,特に河川環 境の情報を数値化する試みが行われている.これらの試 みは,生物的側面の評価と物理構造面の評価2つのアプ ローチに大きく分けられる.生物的側面から河川環境を 評価するシステムとしては,HABSCORE(アメリカ合衆 国)(Barbour et al. 1999),AUSRIVAS(オーストラリア) (Simpson & Norris 2000),RIVPACS(イギリス)(Wright et al. 1984; Moss et al. 1987)などがある.一方で,河川 環境を物理的側面から評価するシステムとしては,Habitat Predicting Model(アメリカ合衆国)(Davies et al. 2000),River Habitat Survey(イギリス)(Raven et al. 1997), SEQ-MP(フランス)(Agence de l’Eau Rhin-Meuse 1996) がある. 我が国における河川環境に関する全国的な調査は,国 土交通省による河川水辺の国勢調査と環境省による自然 環境保全基礎調査がある.この2つの調査では,水生動 植物と陸上動植物に関する詳細なデータが採取されてい る.しかしながら,生物の生息場所(ハビタット)の評 価に関する手法は,未だ体系化されていない. そこで本論ではイギリスで1997年に開発され,2003 年に改訂された River Habitat Survey(RHS)とそのスコ アリングシステムである Habitat Quality Assessment (HQA)を用い,埼玉県,神流川流域の下久保ダム下流 区間の河川環境を評価することを試みた.下久保ダム直 下から下流へ約2.0kmまでの区間には,国指定名勝・ 天然記念物に指定されている三波石峡がある.RHS・HQA の河川環境評価システムが,天然記念物の環境要素を抽 出できるかを検討した. RHSは,河川環境の特徴を評価するシステムであり, 河川環境情報を数値化する試みとしては,実施事例が多 く比較的容易に情報を収集することができる.また, HQAは生物が生息する環境の多様性を数値化すること により評価する方法である.国内河川への適用事例(大 石ほか2006)もあり,調査が比較的短時間・低コストで あるといった観点からも,RHS・HQAの評価システムを 用いた.