A. Nagai, R. Sakagami
{"title":"牙周病与癌症:多组学时代的牙周医学","authors":"A. Nagai, R. Sakagami","doi":"10.2329/perio.62.218","DOIUrl":null,"url":null,"abstract":"令和元年において日本人の死因で最も多くを占める のは悪性新生物〈悪性腫瘍〉 (以下がんと表記する)1) で,死亡総数に占める割合は 28.2%である。また,平 成 29年の罹患データに基づく推計2)によると日本人 が生涯の間にがんに罹患する確率(累積罹患リスク)は 男性,女性それぞれ 65.5%,50.2%である。一方,歯科 疾患実態調査3)によれば,4 mm以上の歯周ポケットを 有する者の割合は,55~64歳の年齢階級において 53.7%,65~74歳のそれにおいて 57.5%,75歳以上にお いて 50.6%である。がんと歯周病はいずれも,身近な 病気と言える。 しかしながら,歯周病ががんにどのような影響を与 えるのかというペリオドンタルメディシンの中心課題 に明確な答えはなかなか出なかった。たとえば,2000 年に発行された「Periodontal Medicine」4)のがんと歯 周病の章5)では,抗がん剤や放射線によるがん治療が 歯周病の病態や歯周管理に及ぼす影響(図 1下段の点 線による囲み領域)に重きをおいて詳述され,歯周病 ががんにおよぼす影響についての記載がほとんどな い。 本年出版された Nwizuらの展望論文6)では,歯周病 患者のがん罹患リスクの疫学的研究の成果が集大成さ れており,全身としても部位別としてもがんのリスク は歯周病によって,ごくわずかながら有意に上昇する と要約している。その上昇の原因については,ペリオ ドンタルメディシンの標準的なメカニズム(歯周ポ ケット細菌の代謝産物の変異原性物質,歯周炎局所で 産生されるサイトカイン類,そして菌血症などによっ てがん組織近傍に運ばれた歯周ポケット細菌が引き起 こす炎症など)に沿った考察が展開されている。 しかしながら,常時細菌バイオフィルムに近接して それらの変異性物質に曝露され続ける歯周ポケット内 縁上皮層を原発巣とするがん症例の報告は,日本歯周 病学会誌においてもほとんど見つけられないくらいま れである。近接していてもその程度の作用しかないと すれば,遠隔臓器のがんに対する作用はさらに弱く, ほとんど無視できるくらいではないかと予想される。 ところが,最近の口腔がん,大腸がんや膵がんの微生 物叢を調べた研究では,微生物叢の細菌種の構成バラ ンスの変化(以下 dysbiosisと略す)の主役として Fusobacterium nucleatum, Porphyromonas gingivalis, Treponema denticola といった歯周病原細菌のオレン ジまたはレッドコンプレックス菌種が登場し,しかも 歯周炎の病因論とは違った役割で病原因子となること が論じられている。 本ミニレビューは,歯周病のがんへの関わりを考え るヒントとして,がんの生物学的プロセスの理解の枠 組み,歯周病とがんにおける炎症性因子や微生物叢の 関連から歯周病が与える影響をどう評価すればよいか を紹介し,がんに対するペリオドンタルメディシンの あり方について考察することを目的とした。","PeriodicalId":19230,"journal":{"name":"Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)","volume":"20 1","pages":""},"PeriodicalIF":0.0000,"publicationDate":"2020-12-28","publicationTypes":"Journal Article","fieldsOfStudy":null,"isOpenAccess":false,"openAccessPdf":"","citationCount":"0","resultStr":"{\"title\":\"Periodontal disease and cancer: Periodontal medicine in the multi-omics era\",\"authors\":\"A. Nagai, R. Sakagami\",\"doi\":\"10.2329/perio.62.218\",\"DOIUrl\":null,\"url\":null,\"abstract\":\"令和元年において日本人の死因で最も多くを占める のは悪性新生物〈悪性腫瘍〉 (以下がんと表記する)1) で,死亡総数に占める割合は 28.2%である。また,平 成 29年の罹患データに基づく推計2)によると日本人 が生涯の間にがんに罹患する確率(累積罹患リスク)は 男性,女性それぞれ 65.5%,50.2%である。一方,歯科 疾患実態調査3)によれば,4 mm以上の歯周ポケットを 有する者の割合は,55~64歳の年齢階級において 53.7%,65~74歳のそれにおいて 57.5%,75歳以上にお いて 50.6%である。がんと歯周病はいずれも,身近な 病気と言える。 しかしながら,歯周病ががんにどのような影響を与 えるのかというペリオドンタルメディシンの中心課題 に明確な答えはなかなか出なかった。たとえば,2000 年に発行された「Periodontal Medicine」4)のがんと歯 周病の章5)では,抗がん剤や放射線によるがん治療が 歯周病の病態や歯周管理に及ぼす影響(図 1下段の点 線による囲み領域)に重きをおいて詳述され,歯周病 ががんにおよぼす影響についての記載がほとんどな い。 本年出版された Nwizuらの展望論文6)では,歯周病 患者のがん罹患リスクの疫学的研究の成果が集大成さ れており,全身としても部位別としてもがんのリスク は歯周病によって,ごくわずかながら有意に上昇する と要約している。その上昇の原因については,ペリオ ドンタルメディシンの標準的なメカニズム(歯周ポ ケット細菌の代謝産物の変異原性物質,歯周炎局所で 産生されるサイトカイン類,そして菌血症などによっ てがん組織近傍に運ばれた歯周ポケット細菌が引き起 こす炎症など)に沿った考察が展開されている。 しかしながら,常時細菌バイオフィルムに近接して それらの変異性物質に曝露され続ける歯周ポケット内 縁上皮層を原発巣とするがん症例の報告は,日本歯周 病学会誌においてもほとんど見つけられないくらいま れである。近接していてもその程度の作用しかないと すれば,遠隔臓器のがんに対する作用はさらに弱く, ほとんど無視できるくらいではないかと予想される。 ところが,最近の口腔がん,大腸がんや膵がんの微生 物叢を調べた研究では,微生物叢の細菌種の構成バラ ンスの変化(以下 dysbiosisと略す)の主役として Fusobacterium nucleatum, Porphyromonas gingivalis, Treponema denticola といった歯周病原細菌のオレン ジまたはレッドコンプレックス菌種が登場し,しかも 歯周炎の病因論とは違った役割で病原因子となること が論じられている。 本ミニレビューは,歯周病のがんへの関わりを考え るヒントとして,がんの生物学的プロセスの理解の枠 組み,歯周病とがんにおける炎症性因子や微生物叢の 関連から歯周病が与える影響をどう評価すればよいか を紹介し,がんに対するペリオドンタルメディシンの あり方について考察することを目的とした。\",\"PeriodicalId\":19230,\"journal\":{\"name\":\"Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)\",\"volume\":\"20 1\",\"pages\":\"\"},\"PeriodicalIF\":0.0000,\"publicationDate\":\"2020-12-28\",\"publicationTypes\":\"Journal Article\",\"fieldsOfStudy\":null,\"isOpenAccess\":false,\"openAccessPdf\":\"\",\"citationCount\":\"0\",\"resultStr\":null,\"platform\":\"Semanticscholar\",\"paperid\":null,\"PeriodicalName\":\"Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)\",\"FirstCategoryId\":\"1085\",\"ListUrlMain\":\"https://doi.org/10.2329/perio.62.218\",\"RegionNum\":0,\"RegionCategory\":null,\"ArticlePicture\":[],\"TitleCN\":null,\"AbstractTextCN\":null,\"PMCID\":null,\"EPubDate\":\"\",\"PubModel\":\"\",\"JCR\":\"\",\"JCRName\":\"\",\"Score\":null,\"Total\":0}","platform":"Semanticscholar","paperid":null,"PeriodicalName":"Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)","FirstCategoryId":"1085","ListUrlMain":"https://doi.org/10.2329/perio.62.218","RegionNum":0,"RegionCategory":null,"ArticlePicture":[],"TitleCN":null,"AbstractTextCN":null,"PMCID":null,"EPubDate":"","PubModel":"","JCR":"","JCRName":"","Score":null,"Total":0}
引用次数: 0
Periodontal disease and cancer: Periodontal medicine in the multi-omics era
令和元年において日本人の死因で最も多くを占める のは悪性新生物〈悪性腫瘍〉 (以下がんと表記する)1) で,死亡総数に占める割合は 28.2%である。また,平 成 29年の罹患データに基づく推計2)によると日本人 が生涯の間にがんに罹患する確率(累積罹患リスク)は 男性,女性それぞれ 65.5%,50.2%である。一方,歯科 疾患実態調査3)によれば,4 mm以上の歯周ポケットを 有する者の割合は,55~64歳の年齢階級において 53.7%,65~74歳のそれにおいて 57.5%,75歳以上にお いて 50.6%である。がんと歯周病はいずれも,身近な 病気と言える。 しかしながら,歯周病ががんにどのような影響を与 えるのかというペリオドンタルメディシンの中心課題 に明確な答えはなかなか出なかった。たとえば,2000 年に発行された「Periodontal Medicine」4)のがんと歯 周病の章5)では,抗がん剤や放射線によるがん治療が 歯周病の病態や歯周管理に及ぼす影響(図 1下段の点 線による囲み領域)に重きをおいて詳述され,歯周病 ががんにおよぼす影響についての記載がほとんどな い。 本年出版された Nwizuらの展望論文6)では,歯周病 患者のがん罹患リスクの疫学的研究の成果が集大成さ れており,全身としても部位別としてもがんのリスク は歯周病によって,ごくわずかながら有意に上昇する と要約している。その上昇の原因については,ペリオ ドンタルメディシンの標準的なメカニズム(歯周ポ ケット細菌の代謝産物の変異原性物質,歯周炎局所で 産生されるサイトカイン類,そして菌血症などによっ てがん組織近傍に運ばれた歯周ポケット細菌が引き起 こす炎症など)に沿った考察が展開されている。 しかしながら,常時細菌バイオフィルムに近接して それらの変異性物質に曝露され続ける歯周ポケット内 縁上皮層を原発巣とするがん症例の報告は,日本歯周 病学会誌においてもほとんど見つけられないくらいま れである。近接していてもその程度の作用しかないと すれば,遠隔臓器のがんに対する作用はさらに弱く, ほとんど無視できるくらいではないかと予想される。 ところが,最近の口腔がん,大腸がんや膵がんの微生 物叢を調べた研究では,微生物叢の細菌種の構成バラ ンスの変化(以下 dysbiosisと略す)の主役として Fusobacterium nucleatum, Porphyromonas gingivalis, Treponema denticola といった歯周病原細菌のオレン ジまたはレッドコンプレックス菌種が登場し,しかも 歯周炎の病因論とは違った役割で病原因子となること が論じられている。 本ミニレビューは,歯周病のがんへの関わりを考え るヒントとして,がんの生物学的プロセスの理解の枠 組み,歯周病とがんにおける炎症性因子や微生物叢の 関連から歯周病が与える影響をどう評価すればよいか を紹介し,がんに対するペリオドンタルメディシンの あり方について考察することを目的とした。