A. Shiro
{"title":"《博士后第一年奋斗述评","authors":"A. Shiro","doi":"10.2472/jsms.63.352","DOIUrl":null,"url":null,"abstract":"(独)日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門 量子ビーム材料評価・構造制御技術研究ユニット弾塑性 材料評価研究グループ博士研究員.これが今の私の肩書で す.専門は放射光X線回折法を利用した材料の応力・ひ ずみ評価で,現在の研究テーマはアルミニウム単結晶に おける応力・ひずみと再結晶挙動に関する研究.これまで に塑性変形を与えた単結晶内の応力・ひずみ分布や,再 結晶挙動には転位が関連していることなどを放射光X線 の観点から明らかにしてきました. 学生時代を含め,大型放射光施設 SPring-8 に常駐して 3年近くが経過しました.当初は1ユーザーでしかなかっ た私も,今では機構の専用ビームラインの光学調整をこ なし,独自研究と並行してユーザーの実験サポートにまわ る立場になりました.多少の変動はあるものの,専用・ 共用ビームラインを合わせて年間 100 日近い実験に携わっ ており,施設の稼働期間は月の半分にビームタイムが連 結していることもままあります.最近は 2つのビームラ インで別々のユーザーが同時に実験し,どちらかを任せ た! と派遣されることもしばしば.こんな風に書くと “できる人”のように聞こえますが,決してそんなことは なく,経験値に基づくところが大きいです.極めて新規 性や難易度の高い実験については,自分の無知や無力さ をその度に痛感させられています.今回は,そんな大型 実験施設の内側からのぞいた材料評価という世界と,私 自身が日々感じていることについてご紹介したいと思い ます. SPring-8 は,ご存じのとおり世界最大級の大型放射光 施設です.周長 1.4kmの蓄積リング内に,60 本近いビー ムラインがあり,施設の稼働期間は各々のビームライン の特徴を活かした研究が昼夜実施されています.その中 で,応力やひずみ評価に利用された実績をもつビームラ インは 9本.回折計やそれに準ずる装置,アクセサリー があれば,一番単純な応力・ひずみ評価は可能であるた め,多くのビームラインで研究が実施できます.しかし, SPring-8 の放射光を利用して,ただ単純に応力やひずみ の評価を行うだけでは何の特異性もありません.そこは やはり,放射光の特徴を活かした,“ここでしかできない 研究”に注目が集まってきます. 近年の放射光を使用した応力測定でキーワードとして 挙げられるのが,微小部,その場(実環境),時分割の3 つです.特に最近は放射光に 2次元検出器が盛んに取り 入れられており,高温炉と組み合わせた焼鈍や再結晶,溶 接中その場測定など,早い時間スケールで起こる現象を1 秒以下の時間分解能で観察する技術が確立されつつあり ます.このように,装置や技術は高度化が進み,効率は 上がっていく一方で,時間的・精神的余裕はなくなって いるように思います.もちろん,限られた施設の稼働時 間の中で,最大限のビームタイムを確保するのは重要で あり,高効率化は極めて望ましいことです.しかしなが ら,昨今のすぐに業績が求められる風潮は,時間に急か されて試行錯誤の時間すら奪ってしまうように感じるこ とも多く,歯がゆく思っている側面もあります. 一方で,研究者にとって一番重要なのは業績であるこ ともまた事実です.研究の独創性,発想力,その研究結 果がもたらす恩恵と,世の中で求められている課題をタ イムリーに見通す力.それらを統合して,いかに面白い 研究を行い,いかに早く成果を公表して,業績につなげ ていくか.研究者の評価対象は業績が全てです.何より も業績が求められているポスドクのポジションにいる今, 博士後期課程の時に言われた,「研究者に努力賞はない」 という言葉の重みを痛感しています. ポスドク1年目,一流の研究者の方々の実験に参加さ せていただき,刺激を与えていただくと同時に,自分の 力量不足を感じる日々です.研究者は豊富な知識や経験 に加えて,体力やタフな精神力も必要であることを知り ました.まだまだ未熟者ではありますが,たゆみない興 味と好奇心を武器に,駆け出しの研究者は今日も第一線 で戦っています.今度は私が材料の新しい知見をお届け できるよう,“倍返し”ならぬ“恩返し”の心意気で, 日々努力していきます.","PeriodicalId":17366,"journal":{"name":"journal of the Japan Society for Testing Materials","volume":"64 1","pages":"352"},"PeriodicalIF":0.0000,"publicationDate":"2014-01-01","publicationTypes":"Journal Article","fieldsOfStudy":null,"isOpenAccess":false,"openAccessPdf":"","citationCount":"0","resultStr":"{\"title\":\"Commentaries on Struggle of the First Year Postdoctoral\",\"authors\":\"A. 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SPring-8 は,ご存じのとおり世界最大級の大型放射光 施設です.周長 1.4kmの蓄積リング内に,60 本近いビー ムラインがあり,施設の稼働期間は各々のビームライン の特徴を活かした研究が昼夜実施されています.その中 で,応力やひずみ評価に利用された実績をもつビームラ インは 9本.回折計やそれに準ずる装置,アクセサリー があれば,一番単純な応力・ひずみ評価は可能であるた め,多くのビームラインで研究が実施できます.しかし, SPring-8 の放射光を利用して,ただ単純に応力やひずみ の評価を行うだけでは何の特異性もありません.そこは やはり,放射光の特徴を活かした,“ここでしかできない 研究”に注目が集まってきます. 近年の放射光を使用した応力測定でキーワードとして 挙げられるのが,微小部,その場(実環境),時分割の3 つです.特に最近は放射光に 2次元検出器が盛んに取り 入れられており,高温炉と組み合わせた焼鈍や再結晶,溶 接中その場測定など,早い時間スケールで起こる現象を1 秒以下の時間分解能で観察する技術が確立されつつあり ます.このように,装置や技術は高度化が進み,効率は 上がっていく一方で,時間的・精神的余裕はなくなって いるように思います.もちろん,限られた施設の稼働時 間の中で,最大限のビームタイムを確保するのは重要で あり,高効率化は極めて望ましいことです.しかしなが ら,昨今のすぐに業績が求められる風潮は,時間に急か されて試行錯誤の時間すら奪ってしまうように感じるこ とも多く,歯がゆく思っている側面もあります. 一方で,研究者にとって一番重要なのは業績であるこ ともまた事実です.研究の独創性,発想力,その研究結 果がもたらす恩恵と,世の中で求められている課題をタ イムリーに見通す力.それらを統合して,いかに面白い 研究を行い,いかに早く成果を公表して,業績につなげ ていくか.研究者の評価対象は業績が全てです.何より も業績が求められているポスドクのポジションにいる今, 博士後期課程の時に言われた,「研究者に努力賞はない」 という言葉の重みを痛感しています. ポスドク1年目,一流の研究者の方々の実験に参加さ せていただき,刺激を与えていただくと同時に,自分の 力量不足を感じる日々です.研究者は豊富な知識や経験 に加えて,体力やタフな精神力も必要であることを知り ました.まだまだ未熟者ではありますが,たゆみない興 味と好奇心を武器に,駆け出しの研究者は今日も第一線 で戦っています.今度は私が材料の新しい知見をお届け できるよう,“倍返し”ならぬ“恩返し”の心意気で, 日々努力していきます.\",\"PeriodicalId\":17366,\"journal\":{\"name\":\"journal of the Japan Society for Testing Materials\",\"volume\":\"64 1\",\"pages\":\"352\"},\"PeriodicalIF\":0.0000,\"publicationDate\":\"2014-01-01\",\"publicationTypes\":\"Journal Article\",\"fieldsOfStudy\":null,\"isOpenAccess\":false,\"openAccessPdf\":\"\",\"citationCount\":\"0\",\"resultStr\":null,\"platform\":\"Semanticscholar\",\"paperid\":null,\"PeriodicalName\":\"journal of the Japan Society for Testing Materials\",\"FirstCategoryId\":\"1085\",\"ListUrlMain\":\"https://doi.org/10.2472/jsms.63.352\",\"RegionNum\":0,\"RegionCategory\":null,\"ArticlePicture\":[],\"TitleCN\":null,\"AbstractTextCN\":null,\"PMCID\":null,\"EPubDate\":\"\",\"PubModel\":\"\",\"JCR\":\"\",\"JCRName\":\"\",\"Score\":null,\"Total\":0}","platform":"Semanticscholar","paperid":null,"PeriodicalName":"journal of the Japan Society for Testing Materials","FirstCategoryId":"1085","ListUrlMain":"https://doi.org/10.2472/jsms.63.352","RegionNum":0,"RegionCategory":null,"ArticlePicture":[],"TitleCN":null,"AbstractTextCN":null,"PMCID":null,"EPubDate":"","PubModel":"","JCR":"","JCRName":"","Score":null,"Total":0}
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Commentaries on Struggle of the First Year Postdoctoral
(独)日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門 量子ビーム材料評価・構造制御技術研究ユニット弾塑性 材料評価研究グループ博士研究員.これが今の私の肩書で す.専門は放射光X線回折法を利用した材料の応力・ひ ずみ評価で,現在の研究テーマはアルミニウム単結晶に おける応力・ひずみと再結晶挙動に関する研究.これまで に塑性変形を与えた単結晶内の応力・ひずみ分布や,再 結晶挙動には転位が関連していることなどを放射光X線 の観点から明らかにしてきました. 学生時代を含め,大型放射光施設 SPring-8 に常駐して 3年近くが経過しました.当初は1ユーザーでしかなかっ た私も,今では機構の専用ビームラインの光学調整をこ なし,独自研究と並行してユーザーの実験サポートにまわ る立場になりました.多少の変動はあるものの,専用・ 共用ビームラインを合わせて年間 100 日近い実験に携わっ ており,施設の稼働期間は月の半分にビームタイムが連 結していることもままあります.最近は 2つのビームラ インで別々のユーザーが同時に実験し,どちらかを任せ た! と派遣されることもしばしば.こんな風に書くと “できる人”のように聞こえますが,決してそんなことは なく,経験値に基づくところが大きいです.極めて新規 性や難易度の高い実験については,自分の無知や無力さ をその度に痛感させられています.今回は,そんな大型 実験施設の内側からのぞいた材料評価という世界と,私 自身が日々感じていることについてご紹介したいと思い ます. SPring-8 は,ご存じのとおり世界最大級の大型放射光 施設です.周長 1.4kmの蓄積リング内に,60 本近いビー ムラインがあり,施設の稼働期間は各々のビームライン の特徴を活かした研究が昼夜実施されています.その中 で,応力やひずみ評価に利用された実績をもつビームラ インは 9本.回折計やそれに準ずる装置,アクセサリー があれば,一番単純な応力・ひずみ評価は可能であるた め,多くのビームラインで研究が実施できます.しかし, SPring-8 の放射光を利用して,ただ単純に応力やひずみ の評価を行うだけでは何の特異性もありません.そこは やはり,放射光の特徴を活かした,“ここでしかできない 研究”に注目が集まってきます. 近年の放射光を使用した応力測定でキーワードとして 挙げられるのが,微小部,その場(実環境),時分割の3 つです.特に最近は放射光に 2次元検出器が盛んに取り 入れられており,高温炉と組み合わせた焼鈍や再結晶,溶 接中その場測定など,早い時間スケールで起こる現象を1 秒以下の時間分解能で観察する技術が確立されつつあり ます.このように,装置や技術は高度化が進み,効率は 上がっていく一方で,時間的・精神的余裕はなくなって いるように思います.もちろん,限られた施設の稼働時 間の中で,最大限のビームタイムを確保するのは重要で あり,高効率化は極めて望ましいことです.しかしなが ら,昨今のすぐに業績が求められる風潮は,時間に急か されて試行錯誤の時間すら奪ってしまうように感じるこ とも多く,歯がゆく思っている側面もあります. 一方で,研究者にとって一番重要なのは業績であるこ ともまた事実です.研究の独創性,発想力,その研究結 果がもたらす恩恵と,世の中で求められている課題をタ イムリーに見通す力.それらを統合して,いかに面白い 研究を行い,いかに早く成果を公表して,業績につなげ ていくか.研究者の評価対象は業績が全てです.何より も業績が求められているポスドクのポジションにいる今, 博士後期課程の時に言われた,「研究者に努力賞はない」 という言葉の重みを痛感しています. ポスドク1年目,一流の研究者の方々の実験に参加さ せていただき,刺激を与えていただくと同時に,自分の 力量不足を感じる日々です.研究者は豊富な知識や経験 に加えて,体力やタフな精神力も必要であることを知り ました.まだまだ未熟者ではありますが,たゆみない興 味と好奇心を武器に,駆け出しの研究者は今日も第一線 で戦っています.今度は私が材料の新しい知見をお届け できるよう,“倍返し”ならぬ“恩返し”の心意気で, 日々努力していきます.