M. Haga
{"title":"基于功能金属配合物的表面配位纳米化学","authors":"M. Haga","doi":"10.4019/bjscc.76.5","DOIUrl":null,"url":null,"abstract":"Wernerの配位説以来,中心金属イオンの酸化数およ び配位数の違いにより中心金属周りの配位子を選択する ことで様々な錯体が合成され,その構造が明らかにされ てきた。また,構造だけでなく,錯体のもつ色,磁性, 酸化還元能など多様な機能性も明らかにされてきた。私 が錯体の研究を始めた 1970–80年代は有機金属錯体の勃 興期であり,日本から多くの研究者がアメリカやドイツ などの海外の大学に留学し,空気中で不安定な化合物を 取り扱う真空ラインや Schlenk管,それにグローブボッ クスなどのテクニックを学び,日本でもその技術を用い た合成法で予期せぬ化合物群が次々に合成され,単結晶 X線構造解析されていた時代であった。そんな中で,私 が初めに取り組んだのはイリジウム (I)-イソシアニド錯 体であった。アリルイソシアニドをもつ平面四配位の [Ir(CN-R)4] 錯体を合成したが,この錯体は [Rh(CN-R)4] 錯体 から予期していた橙から黄色ではなく,黒緑色を 示した。この [Ir(CN-R)4]錯体は,光照射下で次第に黄 緑色に変化する 。ほとんど同時期に,イソシアニドの 置換基をアリル基からメチル基に変えた [Ir(CN-Me)4] 錯体が報告された 。この錯体は,最初青色であるが, 光にあてるとほとんど瞬時に橙色に変化することが報告 された 。この光反応は,平面四配位構造をもつイリジ ウム錯体が積み重なって Ir–Ir間に結合をもつ集合体と なっており,光により集合体の Ir–Ir結合が開裂する反 応であると結論された 。イリジウム (I)テトラキスイ ソシアニド錯体では,アリル基をメチル基に変えると光 反応が格段に速くなることがわかった。このイリジウ ム (I)イソシアニド錯体が示す Ir–Ir金属間結合は同族の ロジウムイソシアニド錯体でも存在することがわかり , 金属間結合の光開裂を利用した水素発生触媒へと展開し ていった。新しく錯体を合成する際には,配位子の置換 基をいろいろと変えて中心金属への影響を調べてみるこ とで機能性が顕著に変わることがあること,さらには金 属 –金属間相互作用など新しい相互作用の導入により錯 体の集合化 が可能となること,さらには錯体の機能性 をより広い視点から考えることが重要であることをイリ ジウム錯体の研究で,錯体研究の入り口に立った駆け出 しの学生時代に学んだ。 1970年代の後半に起こった中東戦争は世界にオイル ショックを引き起こし,石油に頼らない新しいエネルギ ー資源として太陽光から化学エネルギーを得ようとする 研究が盛んになっていた。そのような時代背景の中で, 1976年に D. Whittenらにより発表された論文は衝撃的 であった 。それは,長鎖アルキル基をもつ [Ru(R2bpy) (bpy)2] 2+ (bpy = 2,2′-ビピリジン ) 錯体を酸化インジウム・ 酸化スズ (ITO)電極に塗布した修飾電極を水に浸けて光 を照射すると,水が分解されて水素と酸素になるという 速報であった。非常に革新的なアイデアであったので, その後いくつかのグループで追試実験が行われたが,再 現性はとれなかった。しかしながら,私はこの研究に大 いに触発されて,ルテニウムを中心金属とする錯体の合 連絡先著者名:芳賀 正明 連絡先:112-8551 東京都文京区春日 1-13-27 中央大学研究開発機構 Tel: 81-3-3817-7401 Fax: 81-3-3817-1895 Corresponding Author: Masa-aki Haga E-mail: mhaga83@gmail.com Address: 1-13-27 Kasuga, Bunkyo-ku, Tokyo 112-8551, Japan","PeriodicalId":72479,"journal":{"name":"Bulletin of Japan Society of Coordination Chemistry","volume":" ","pages":""},"PeriodicalIF":0.0000,"publicationDate":"2020-11-30","publicationTypes":"Journal Article","fieldsOfStudy":null,"isOpenAccess":false,"openAccessPdf":"","citationCount":"0","resultStr":"{\"title\":\"Surface Coordination Nanochemistry Based on Functional Metal Complexes\",\"authors\":\"M. Haga\",\"doi\":\"10.4019/bjscc.76.5\",\"DOIUrl\":null,\"url\":null,\"abstract\":\"Wernerの配位説以来,中心金属イオンの酸化数およ び配位数の違いにより中心金属周りの配位子を選択する ことで様々な錯体が合成され,その構造が明らかにされ てきた。また,構造だけでなく,錯体のもつ色,磁性, 酸化還元能など多様な機能性も明らかにされてきた。私 が錯体の研究を始めた 1970–80年代は有機金属錯体の勃 興期であり,日本から多くの研究者がアメリカやドイツ などの海外の大学に留学し,空気中で不安定な化合物を 取り扱う真空ラインや Schlenk管,それにグローブボッ クスなどのテクニックを学び,日本でもその技術を用い た合成法で予期せぬ化合物群が次々に合成され,単結晶 X線構造解析されていた時代であった。そんな中で,私 が初めに取り組んだのはイリジウム (I)-イソシアニド錯 体であった。アリルイソシアニドをもつ平面四配位の [Ir(CN-R)4] 錯体を合成したが,この錯体は [Rh(CN-R)4] 錯体 から予期していた橙から黄色ではなく,黒緑色を 示した。この [Ir(CN-R)4]錯体は,光照射下で次第に黄 緑色に変化する 。ほとんど同時期に,イソシアニドの 置換基をアリル基からメチル基に変えた [Ir(CN-Me)4] 錯体が報告された 。この錯体は,最初青色であるが, 光にあてるとほとんど瞬時に橙色に変化することが報告 された 。この光反応は,平面四配位構造をもつイリジ ウム錯体が積み重なって Ir–Ir間に結合をもつ集合体と なっており,光により集合体の Ir–Ir結合が開裂する反 応であると結論された 。イリジウム (I)テトラキスイ ソシアニド錯体では,アリル基をメチル基に変えると光 反応が格段に速くなることがわかった。このイリジウ ム (I)イソシアニド錯体が示す Ir–Ir金属間結合は同族の ロジウムイソシアニド錯体でも存在することがわかり , 金属間結合の光開裂を利用した水素発生触媒へと展開し ていった。新しく錯体を合成する際には,配位子の置換 基をいろいろと変えて中心金属への影響を調べてみるこ とで機能性が顕著に変わることがあること,さらには金 属 –金属間相互作用など新しい相互作用の導入により錯 体の集合化 が可能となること,さらには錯体の機能性 をより広い視点から考えることが重要であることをイリ ジウム錯体の研究で,錯体研究の入り口に立った駆け出 しの学生時代に学んだ。 1970年代の後半に起こった中東戦争は世界にオイル ショックを引き起こし,石油に頼らない新しいエネルギ ー資源として太陽光から化学エネルギーを得ようとする 研究が盛んになっていた。そのような時代背景の中で, 1976年に D. Whittenらにより発表された論文は衝撃的 であった 。それは,長鎖アルキル基をもつ [Ru(R2bpy) (bpy)2] 2+ (bpy = 2,2′-ビピリジン ) 錯体を酸化インジウム・ 酸化スズ (ITO)電極に塗布した修飾電極を水に浸けて光 を照射すると,水が分解されて水素と酸素になるという 速報であった。非常に革新的なアイデアであったので, その後いくつかのグループで追試実験が行われたが,再 現性はとれなかった。しかしながら,私はこの研究に大 いに触発されて,ルテニウムを中心金属とする錯体の合 連絡先著者名:芳賀 正明 連絡先:112-8551 東京都文京区春日 1-13-27 中央大学研究開発機構 Tel: 81-3-3817-7401 Fax: 81-3-3817-1895 Corresponding Author: Masa-aki Haga E-mail: mhaga83@gmail.com Address: 1-13-27 Kasuga, Bunkyo-ku, Tokyo 112-8551, Japan\",\"PeriodicalId\":72479,\"journal\":{\"name\":\"Bulletin of Japan Society of Coordination Chemistry\",\"volume\":\" \",\"pages\":\"\"},\"PeriodicalIF\":0.0000,\"publicationDate\":\"2020-11-30\",\"publicationTypes\":\"Journal Article\",\"fieldsOfStudy\":null,\"isOpenAccess\":false,\"openAccessPdf\":\"\",\"citationCount\":\"0\",\"resultStr\":null,\"platform\":\"Semanticscholar\",\"paperid\":null,\"PeriodicalName\":\"Bulletin of Japan Society of Coordination Chemistry\",\"FirstCategoryId\":\"1085\",\"ListUrlMain\":\"https://doi.org/10.4019/bjscc.76.5\",\"RegionNum\":0,\"RegionCategory\":null,\"ArticlePicture\":[],\"TitleCN\":null,\"AbstractTextCN\":null,\"PMCID\":null,\"EPubDate\":\"\",\"PubModel\":\"\",\"JCR\":\"\",\"JCRName\":\"\",\"Score\":null,\"Total\":0}","platform":"Semanticscholar","paperid":null,"PeriodicalName":"Bulletin of Japan Society of Coordination Chemistry","FirstCategoryId":"1085","ListUrlMain":"https://doi.org/10.4019/bjscc.76.5","RegionNum":0,"RegionCategory":null,"ArticlePicture":[],"TitleCN":null,"AbstractTextCN":null,"PMCID":null,"EPubDate":"","PubModel":"","JCR":"","JCRName":"","Score":null,"Total":0}
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Surface Coordination Nanochemistry Based on Functional Metal Complexes
Wernerの配位説以来,中心金属イオンの酸化数およ び配位数の違いにより中心金属周りの配位子を選択する ことで様々な錯体が合成され,その構造が明らかにされ てきた。また,構造だけでなく,錯体のもつ色,磁性, 酸化還元能など多様な機能性も明らかにされてきた。私 が錯体の研究を始めた 1970–80年代は有機金属錯体の勃 興期であり,日本から多くの研究者がアメリカやドイツ などの海外の大学に留学し,空気中で不安定な化合物を 取り扱う真空ラインや Schlenk管,それにグローブボッ クスなどのテクニックを学び,日本でもその技術を用い た合成法で予期せぬ化合物群が次々に合成され,単結晶 X線構造解析されていた時代であった。そんな中で,私 が初めに取り組んだのはイリジウム (I)-イソシアニド錯 体であった。アリルイソシアニドをもつ平面四配位の [Ir(CN-R)4] 錯体を合成したが,この錯体は [Rh(CN-R)4] 錯体 から予期していた橙から黄色ではなく,黒緑色を 示した。この [Ir(CN-R)4]錯体は,光照射下で次第に黄 緑色に変化する 。ほとんど同時期に,イソシアニドの 置換基をアリル基からメチル基に変えた [Ir(CN-Me)4] 錯体が報告された 。この錯体は,最初青色であるが, 光にあてるとほとんど瞬時に橙色に変化することが報告 された 。この光反応は,平面四配位構造をもつイリジ ウム錯体が積み重なって Ir–Ir間に結合をもつ集合体と なっており,光により集合体の Ir–Ir結合が開裂する反 応であると結論された 。イリジウム (I)テトラキスイ ソシアニド錯体では,アリル基をメチル基に変えると光 反応が格段に速くなることがわかった。このイリジウ ム (I)イソシアニド錯体が示す Ir–Ir金属間結合は同族の ロジウムイソシアニド錯体でも存在することがわかり , 金属間結合の光開裂を利用した水素発生触媒へと展開し ていった。新しく錯体を合成する際には,配位子の置換 基をいろいろと変えて中心金属への影響を調べてみるこ とで機能性が顕著に変わることがあること,さらには金 属 –金属間相互作用など新しい相互作用の導入により錯 体の集合化 が可能となること,さらには錯体の機能性 をより広い視点から考えることが重要であることをイリ ジウム錯体の研究で,錯体研究の入り口に立った駆け出 しの学生時代に学んだ。 1970年代の後半に起こった中東戦争は世界にオイル ショックを引き起こし,石油に頼らない新しいエネルギ ー資源として太陽光から化学エネルギーを得ようとする 研究が盛んになっていた。そのような時代背景の中で, 1976年に D. Whittenらにより発表された論文は衝撃的 であった 。それは,長鎖アルキル基をもつ [Ru(R2bpy) (bpy)2] 2+ (bpy = 2,2′-ビピリジン ) 錯体を酸化インジウム・ 酸化スズ (ITO)電極に塗布した修飾電極を水に浸けて光 を照射すると,水が分解されて水素と酸素になるという 速報であった。非常に革新的なアイデアであったので, その後いくつかのグループで追試実験が行われたが,再 現性はとれなかった。しかしながら,私はこの研究に大 いに触発されて,ルテニウムを中心金属とする錯体の合 連絡先著者名:芳賀 正明 連絡先:112-8551 東京都文京区春日 1-13-27 中央大学研究開発機構 Tel: 81-3-3817-7401 Fax: 81-3-3817-1895 Corresponding Author: Masa-aki Haga E-mail: mhaga83@gmail.com Address: 1-13-27 Kasuga, Bunkyo-ku, Tokyo 112-8551, Japan