T. Kodama
{"title":"从脑电图研究中考虑“气味”","authors":"T. Kodama","doi":"10.5057/kansei.18.4_181","DOIUrl":null,"url":null,"abstract":"ヒトの脳は,長い進化の過程の中で,古い脳の上に新しい 層を積み重ねて作られてきた.そこには,ヒトならではの手 を使った巧緻動作や二足での歩行動作といった,複雑な動き を可能にするための幾度とない挑戦があったからであると いえる.この複雑な脳の進化は,単に感覚入力と運動出力を 結び付けることだけで成し得たものではない.絶え間ない 外界からの様々な感覚情報に対応しながら,それらを捉え, 情動や感情を基盤に意思や思考,創造を発動させることで発 達させてきた.脳に入力された感覚情報を適切に統合し組織 化していく処理過程を感覚統合というが,この感覚統合には どのような感覚情報が入力されるかが重要となり,それに よって出力応答内容が変化する.中でも,嗅覚は,感覚系に おいて特に個体の行動と密接に関連する感覚情報とされ, ヒトの創造性を広げ生活を豊かにする可能性をもつものと 考えられている.元来,ヒトの嗅覚は,視覚や聴覚といった 主感覚とは違いむしろ従感覚的な役割と考えられてきた. しかし,このヒトの嗅覚は,八千万種以上の匂いを識別し, 視覚や聴覚,触覚(体性感覚)などの他の感覚が機能しない 状況下でも,常に機能している.そして,これら他の感覚が 薄らいでしまったあとでも,匂いは頭の中に記憶として残っ ている.匂いと脳の関係について,進化論的には,左右大脳 半球は,嗅球や嗅索などから成る嗅葉といわれる旧皮質領 域が発達したものであるとされている.海のような水の中 でも働かせることのできる嗅覚器官は,いわば遠方探知器の 受信装置のようなものともいわれており,海の中での進化と ともに,必然的に匂いに関連する脳領域が最初に発達した とされる. ヒトの第一次嗅覚皮質野は,側頭葉内側部に存在している が,発生学的には古皮質であり三層構造となっている[1]. 嗅内皮質は,同じく古皮質である記憶や学習に携わる海馬へ 情報を伝達し,情動反応の処理や記憶固定に携わる扁桃体へ と伝えられる.そのため,匂いが単に物理的な感覚情報で あれば,匂いの感じ方には個人差が生じないはずであるが, 実際には同じ濃度の匂いであっても感じ方は異なる.多く の研究から,質と強度が匂いを決める要素として明らかに なればなるほど,感受性の異なるヒトにおいてはその影響 を客観的に結論付けることが難しくなる.匂いが,他の 感覚に比べ短い神経伝達プロセスで処理され,新皮質の 担う高次機能と旧古皮質の担う記憶や情動が関連しながら 処理されていくことを考えると,これらのメカニズムを 解明するためには,ヒトそれぞれの一瞬一瞬における心や 意識といった領域にも踏み込んで考える必要性がある. そのためには,匂いの心象や官能的側面の評価のみならず, 刻一刻と変動する匂いの影響を受けた脳の活動状態を, いかにリアルタイムに捉えるかが,匂いの本質的な評価と なるのではないかと思われる.本稿では,まず匂いが脳内で どのように処理されていくのかついて概説し,近年,飛躍 的に発展を遂げてきた非侵襲脳機能計測法である脳波解析 を用いた匂いの研究を中心に,脳は匂いをどのように捉え ているのかについて考えてみる.","PeriodicalId":230482,"journal":{"name":"Journal of Japan Society of Kansei Engineering","volume":"1 1","pages":"0"},"PeriodicalIF":0.0000,"publicationDate":"2020-12-31","publicationTypes":"Journal Article","fieldsOfStudy":null,"isOpenAccess":false,"openAccessPdf":"","citationCount":"0","resultStr":"{\"title\":\"Considering “smell” from Electroencephalography Study\",\"authors\":\"T. Kodama\",\"doi\":\"10.5057/kansei.18.4_181\",\"DOIUrl\":null,\"url\":null,\"abstract\":\"ヒトの脳は,長い進化の過程の中で,古い脳の上に新しい 層を積み重ねて作られてきた.そこには,ヒトならではの手 を使った巧緻動作や二足での歩行動作といった,複雑な動き を可能にするための幾度とない挑戦があったからであると いえる.この複雑な脳の進化は,単に感覚入力と運動出力を 結び付けることだけで成し得たものではない.絶え間ない 外界からの様々な感覚情報に対応しながら,それらを捉え, 情動や感情を基盤に意思や思考,創造を発動させることで発 達させてきた.脳に入力された感覚情報を適切に統合し組織 化していく処理過程を感覚統合というが,この感覚統合には どのような感覚情報が入力されるかが重要となり,それに よって出力応答内容が変化する.中でも,嗅覚は,感覚系に おいて特に個体の行動と密接に関連する感覚情報とされ, ヒトの創造性を広げ生活を豊かにする可能性をもつものと 考えられている.元来,ヒトの嗅覚は,視覚や聴覚といった 主感覚とは違いむしろ従感覚的な役割と考えられてきた. しかし,このヒトの嗅覚は,八千万種以上の匂いを識別し, 視覚や聴覚,触覚(体性感覚)などの他の感覚が機能しない 状況下でも,常に機能している.そして,これら他の感覚が 薄らいでしまったあとでも,匂いは頭の中に記憶として残っ ている.匂いと脳の関係について,進化論的には,左右大脳 半球は,嗅球や嗅索などから成る嗅葉といわれる旧皮質領 域が発達したものであるとされている.海のような水の中 でも働かせることのできる嗅覚器官は,いわば遠方探知器の 受信装置のようなものともいわれており,海の中での進化と ともに,必然的に匂いに関連する脳領域が最初に発達した とされる. ヒトの第一次嗅覚皮質野は,側頭葉内側部に存在している が,発生学的には古皮質であり三層構造となっている[1]. 嗅内皮質は,同じく古皮質である記憶や学習に携わる海馬へ 情報を伝達し,情動反応の処理や記憶固定に携わる扁桃体へ と伝えられる.そのため,匂いが単に物理的な感覚情報で あれば,匂いの感じ方には個人差が生じないはずであるが, 実際には同じ濃度の匂いであっても感じ方は異なる.多く の研究から,質と強度が匂いを決める要素として明らかに なればなるほど,感受性の異なるヒトにおいてはその影響 を客観的に結論付けることが難しくなる.匂いが,他の 感覚に比べ短い神経伝達プロセスで処理され,新皮質の 担う高次機能と旧古皮質の担う記憶や情動が関連しながら 処理されていくことを考えると,これらのメカニズムを 解明するためには,ヒトそれぞれの一瞬一瞬における心や 意識といった領域にも踏み込んで考える必要性がある. そのためには,匂いの心象や官能的側面の評価のみならず, 刻一刻と変動する匂いの影響を受けた脳の活動状態を, いかにリアルタイムに捉えるかが,匂いの本質的な評価と なるのではないかと思われる.本稿では,まず匂いが脳内で どのように処理されていくのかついて概説し,近年,飛躍 的に発展を遂げてきた非侵襲脳機能計測法である脳波解析 を用いた匂いの研究を中心に,脳は匂いをどのように捉え ているのかについて考えてみる.\",\"PeriodicalId\":230482,\"journal\":{\"name\":\"Journal of Japan Society of Kansei Engineering\",\"volume\":\"1 1\",\"pages\":\"0\"},\"PeriodicalIF\":0.0000,\"publicationDate\":\"2020-12-31\",\"publicationTypes\":\"Journal Article\",\"fieldsOfStudy\":null,\"isOpenAccess\":false,\"openAccessPdf\":\"\",\"citationCount\":\"0\",\"resultStr\":null,\"platform\":\"Semanticscholar\",\"paperid\":null,\"PeriodicalName\":\"Journal of Japan Society of Kansei Engineering\",\"FirstCategoryId\":\"1085\",\"ListUrlMain\":\"https://doi.org/10.5057/kansei.18.4_181\",\"RegionNum\":0,\"RegionCategory\":null,\"ArticlePicture\":[],\"TitleCN\":null,\"AbstractTextCN\":null,\"PMCID\":null,\"EPubDate\":\"\",\"PubModel\":\"\",\"JCR\":\"\",\"JCRName\":\"\",\"Score\":null,\"Total\":0}","platform":"Semanticscholar","paperid":null,"PeriodicalName":"Journal of Japan Society of Kansei Engineering","FirstCategoryId":"1085","ListUrlMain":"https://doi.org/10.5057/kansei.18.4_181","RegionNum":0,"RegionCategory":null,"ArticlePicture":[],"TitleCN":null,"AbstractTextCN":null,"PMCID":null,"EPubDate":"","PubModel":"","JCR":"","JCRName":"","Score":null,"Total":0}
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Considering “smell” from Electroencephalography Study
ヒトの脳は,長い進化の過程の中で,古い脳の上に新しい 層を積み重ねて作られてきた.そこには,ヒトならではの手 を使った巧緻動作や二足での歩行動作といった,複雑な動き を可能にするための幾度とない挑戦があったからであると いえる.この複雑な脳の進化は,単に感覚入力と運動出力を 結び付けることだけで成し得たものではない.絶え間ない 外界からの様々な感覚情報に対応しながら,それらを捉え, 情動や感情を基盤に意思や思考,創造を発動させることで発 達させてきた.脳に入力された感覚情報を適切に統合し組織 化していく処理過程を感覚統合というが,この感覚統合には どのような感覚情報が入力されるかが重要となり,それに よって出力応答内容が変化する.中でも,嗅覚は,感覚系に おいて特に個体の行動と密接に関連する感覚情報とされ, ヒトの創造性を広げ生活を豊かにする可能性をもつものと 考えられている.元来,ヒトの嗅覚は,視覚や聴覚といった 主感覚とは違いむしろ従感覚的な役割と考えられてきた. しかし,このヒトの嗅覚は,八千万種以上の匂いを識別し, 視覚や聴覚,触覚(体性感覚)などの他の感覚が機能しない 状況下でも,常に機能している.そして,これら他の感覚が 薄らいでしまったあとでも,匂いは頭の中に記憶として残っ ている.匂いと脳の関係について,進化論的には,左右大脳 半球は,嗅球や嗅索などから成る嗅葉といわれる旧皮質領 域が発達したものであるとされている.海のような水の中 でも働かせることのできる嗅覚器官は,いわば遠方探知器の 受信装置のようなものともいわれており,海の中での進化と ともに,必然的に匂いに関連する脳領域が最初に発達した とされる. ヒトの第一次嗅覚皮質野は,側頭葉内側部に存在している が,発生学的には古皮質であり三層構造となっている[1]. 嗅内皮質は,同じく古皮質である記憶や学習に携わる海馬へ 情報を伝達し,情動反応の処理や記憶固定に携わる扁桃体へ と伝えられる.そのため,匂いが単に物理的な感覚情報で あれば,匂いの感じ方には個人差が生じないはずであるが, 実際には同じ濃度の匂いであっても感じ方は異なる.多く の研究から,質と強度が匂いを決める要素として明らかに なればなるほど,感受性の異なるヒトにおいてはその影響 を客観的に結論付けることが難しくなる.匂いが,他の 感覚に比べ短い神経伝達プロセスで処理され,新皮質の 担う高次機能と旧古皮質の担う記憶や情動が関連しながら 処理されていくことを考えると,これらのメカニズムを 解明するためには,ヒトそれぞれの一瞬一瞬における心や 意識といった領域にも踏み込んで考える必要性がある. そのためには,匂いの心象や官能的側面の評価のみならず, 刻一刻と変動する匂いの影響を受けた脳の活動状態を, いかにリアルタイムに捉えるかが,匂いの本質的な評価と なるのではないかと思われる.本稿では,まず匂いが脳内で どのように処理されていくのかついて概説し,近年,飛躍 的に発展を遂げてきた非侵襲脳機能計測法である脳波解析 を用いた匂いの研究を中心に,脳は匂いをどのように捉え ているのかについて考えてみる.