A. Kanayama
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{"title":"害虫黑蝇、黄蜂、蟑螂、蚊子的生态学研究","authors":"A. Kanayama","doi":"10.7601/mez.71.253","DOIUrl":null,"url":null,"abstract":"ウエストナイル熱の侵入危機以降,にわかに蚊媒介性疾 患が注目された.過去猛威を振るった日本脳炎も1968年 以降大幅に患者数は減少した.その時期が衛生動物との出 会いであり,京都市衛生研究所でコガタアカイエカCulex tritaeniorhynchus Gilesを目にした.当時,日本脳炎患者数は 少ないものの,全国規模で日本脳炎流行予測事業が進行し ていた.豚舎でのコガタアカイエカ採集と種類同定,日本 脳炎ウイルス分離用のコガタアカイエカの準備では,4°Cの 低温室で防寒服を着用し,豚舎で捕獲した蚊を分類し,所 定のプール数に小分けした.研究所では蚊類の種類同定を 教わった.全国規模で日本脳炎ウイルスの抗原分析事業が 始まった1969年,静岡県衛生研究所(細菌課・ウイルス室) に入所した.医動物部門はなく,夏期のみ,夜間,豚舎で はコガタアカイエカの採集を行った.豚舎でクロゴキブリ Periplaneta fuliginosa Servilleとその卵鞘に寄生するゴキブリコ バチTetrastichus hagenowii(Ratzeburg)と出会った.1976年7 月,横浜市衛生研究所・医動物室に再就職し,蚊とクロゴキ ブリ以外の多くの衛生動物,不快害虫との出会が始まった. 医動物室では,市内の保健所,企業,市民等から持ち込まれ る様々な生き物の種類同定,食品に混入した昆虫や異物の 食品中異物検査を行った.また,室内塵のダニ検査,砂場の イヌ・ネコ回虫卵検査等と時代の要請に応えることも大切で あった. 日本脳炎の流行が小規模になり,蚊媒介性感染症の流行が 小規模になるに伴い,害虫の防除はベクターからニューサン スへと移行し,衛生動物の業務も多様化が進んだ.ダニ過敏 症の市民対応をはじめ市街地住宅地でのハチ類の営巣,刺傷 事例も一時,重要な案件であった.夜間,スズメバチの巣撤 去に出かけることもあった.そうした中,1982年,神奈川 県ペストコントロール協会へのスズメバチ駆除委託が始ま り巣とりの除去もなくなった.ハイイロゴケグモLatrodectus geometricus C. L. Kochが横浜港に侵入した際はその対応に追 われた.我が国では,ブユ刺咬による重篤な病気はないが, 激しい痒みや疼痛,刺咬後の腫れなどがみられる.市街地で の刺咬被害はないが,ゴルフ場,山間部の渓流を有する景勝 地での刺咬・吸血被害は深刻である.1980年当初から全国 のブユ分布調査に加わり,本格的な採集調査が始まった. チャバネゴキブリBlattella germanica(Linnaeus)は,一般 的な都市害虫として世界中で知られている.オフィスビル, 地下店舗,飲食店舗,集合住宅など建造物内で繁殖し,衛生 害虫,不快害虫として深刻な問題となっている.環境整備が 進み,新しい殺虫剤の開発でゴキブリの駆除方法も変わって きたものの,抵抗性の獲得もあり駆除は決して容易ではな い.防除を考える上で,ゴキブリの持つ行動習性を知ること も重要であった. ウエストナイル熱侵入危機以降,国・各地方自治体ではい ち早く疾病媒介蚊の生息調査,ウイルス検出等のウエストナ イル熱対策事業を立ち上げた.チクングニア熱,デング熱, ジカ熱等,新興・再興感染症の発生,侵入が危惧される今 日,蚊類媒介媒感染症対策事業の継続は必須となった.そう した事業・研究・調査を始めるに当たって,地方自治体の衛 生研究所(現在では色々な名称で呼ばれている)が担う役割 は非常に大きい. 医動物室の多岐にわたる業務の中から,関わりの強かった 昆虫に関する調査,研究の一端を紹介したい.","PeriodicalId":104111,"journal":{"name":"Medical Entomology and Zoology","volume":"34 1","pages":"0"},"PeriodicalIF":0.0000,"publicationDate":"2020-12-25","publicationTypes":"Journal Article","fieldsOfStudy":null,"isOpenAccess":false,"openAccessPdf":"","citationCount":"0","resultStr":"{\"title\":\"Studies on the ecology of pests -Blackfly, wasp, cockroach and mosquito-\",\"authors\":\"A. Kanayama\",\"doi\":\"10.7601/mez.71.253\",\"DOIUrl\":null,\"url\":null,\"abstract\":\"ウエストナイル熱の侵入危機以降,にわかに蚊媒介性疾 患が注目された.過去猛威を振るった日本脳炎も1968年 以降大幅に患者数は減少した.その時期が衛生動物との出 会いであり,京都市衛生研究所でコガタアカイエカCulex tritaeniorhynchus Gilesを目にした.当時,日本脳炎患者数は 少ないものの,全国規模で日本脳炎流行予測事業が進行し ていた.豚舎でのコガタアカイエカ採集と種類同定,日本 脳炎ウイルス分離用のコガタアカイエカの準備では,4°Cの 低温室で防寒服を着用し,豚舎で捕獲した蚊を分類し,所 定のプール数に小分けした.研究所では蚊類の種類同定を 教わった.全国規模で日本脳炎ウイルスの抗原分析事業が 始まった1969年,静岡県衛生研究所(細菌課・ウイルス室) に入所した.医動物部門はなく,夏期のみ,夜間,豚舎で はコガタアカイエカの採集を行った.豚舎でクロゴキブリ Periplaneta fuliginosa Servilleとその卵鞘に寄生するゴキブリコ バチTetrastichus hagenowii(Ratzeburg)と出会った.1976年7 月,横浜市衛生研究所・医動物室に再就職し,蚊とクロゴキ ブリ以外の多くの衛生動物,不快害虫との出会が始まった. 医動物室では,市内の保健所,企業,市民等から持ち込まれ る様々な生き物の種類同定,食品に混入した昆虫や異物の 食品中異物検査を行った.また,室内塵のダニ検査,砂場の イヌ・ネコ回虫卵検査等と時代の要請に応えることも大切で あった. 日本脳炎の流行が小規模になり,蚊媒介性感染症の流行が 小規模になるに伴い,害虫の防除はベクターからニューサン スへと移行し,衛生動物の業務も多様化が進んだ.ダニ過敏 症の市民対応をはじめ市街地住宅地でのハチ類の営巣,刺傷 事例も一時,重要な案件であった.夜間,スズメバチの巣撤 去に出かけることもあった.そうした中,1982年,神奈川 県ペストコントロール協会へのスズメバチ駆除委託が始ま り巣とりの除去もなくなった.ハイイロゴケグモLatrodectus geometricus C. L. Kochが横浜港に侵入した際はその対応に追 われた.我が国では,ブユ刺咬による重篤な病気はないが, 激しい痒みや疼痛,刺咬後の腫れなどがみられる.市街地で の刺咬被害はないが,ゴルフ場,山間部の渓流を有する景勝 地での刺咬・吸血被害は深刻である.1980年当初から全国 のブユ分布調査に加わり,本格的な採集調査が始まった. チャバネゴキブリBlattella germanica(Linnaeus)は,一般 的な都市害虫として世界中で知られている.オフィスビル, 地下店舗,飲食店舗,集合住宅など建造物内で繁殖し,衛生 害虫,不快害虫として深刻な問題となっている.環境整備が 進み,新しい殺虫剤の開発でゴキブリの駆除方法も変わって きたものの,抵抗性の獲得もあり駆除は決して容易ではな い.防除を考える上で,ゴキブリの持つ行動習性を知ること も重要であった. ウエストナイル熱侵入危機以降,国・各地方自治体ではい ち早く疾病媒介蚊の生息調査,ウイルス検出等のウエストナ イル熱対策事業を立ち上げた.チクングニア熱,デング熱, ジカ熱等,新興・再興感染症の発生,侵入が危惧される今 日,蚊類媒介媒感染症対策事業の継続は必須となった.そう した事業・研究・調査を始めるに当たって,地方自治体の衛 生研究所(現在では色々な名称で呼ばれている)が担う役割 は非常に大きい. 医動物室の多岐にわたる業務の中から,関わりの強かった 昆虫に関する調査,研究の一端を紹介したい.\",\"PeriodicalId\":104111,\"journal\":{\"name\":\"Medical Entomology and Zoology\",\"volume\":\"34 1\",\"pages\":\"0\"},\"PeriodicalIF\":0.0000,\"publicationDate\":\"2020-12-25\",\"publicationTypes\":\"Journal Article\",\"fieldsOfStudy\":null,\"isOpenAccess\":false,\"openAccessPdf\":\"\",\"citationCount\":\"0\",\"resultStr\":null,\"platform\":\"Semanticscholar\",\"paperid\":null,\"PeriodicalName\":\"Medical Entomology and Zoology\",\"FirstCategoryId\":\"1085\",\"ListUrlMain\":\"https://doi.org/10.7601/mez.71.253\",\"RegionNum\":0,\"RegionCategory\":null,\"ArticlePicture\":[],\"TitleCN\":null,\"AbstractTextCN\":null,\"PMCID\":null,\"EPubDate\":\"\",\"PubModel\":\"\",\"JCR\":\"\",\"JCRName\":\"\",\"Score\":null,\"Total\":0}","platform":"Semanticscholar","paperid":null,"PeriodicalName":"Medical Entomology and Zoology","FirstCategoryId":"1085","ListUrlMain":"https://doi.org/10.7601/mez.71.253","RegionNum":0,"RegionCategory":null,"ArticlePicture":[],"TitleCN":null,"AbstractTextCN":null,"PMCID":null,"EPubDate":"","PubModel":"","JCR":"","JCRName":"","Score":null,"Total":0}
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Studies on the ecology of pests -Blackfly, wasp, cockroach and mosquito-
ウエストナイル熱の侵入危機以降,にわかに蚊媒介性疾 患が注目された.過去猛威を振るった日本脳炎も1968年 以降大幅に患者数は減少した.その時期が衛生動物との出 会いであり,京都市衛生研究所でコガタアカイエカCulex tritaeniorhynchus Gilesを目にした.当時,日本脳炎患者数は 少ないものの,全国規模で日本脳炎流行予測事業が進行し ていた.豚舎でのコガタアカイエカ採集と種類同定,日本 脳炎ウイルス分離用のコガタアカイエカの準備では,4°Cの 低温室で防寒服を着用し,豚舎で捕獲した蚊を分類し,所 定のプール数に小分けした.研究所では蚊類の種類同定を 教わった.全国規模で日本脳炎ウイルスの抗原分析事業が 始まった1969年,静岡県衛生研究所(細菌課・ウイルス室) に入所した.医動物部門はなく,夏期のみ,夜間,豚舎で はコガタアカイエカの採集を行った.豚舎でクロゴキブリ Periplaneta fuliginosa Servilleとその卵鞘に寄生するゴキブリコ バチTetrastichus hagenowii(Ratzeburg)と出会った.1976年7 月,横浜市衛生研究所・医動物室に再就職し,蚊とクロゴキ ブリ以外の多くの衛生動物,不快害虫との出会が始まった. 医動物室では,市内の保健所,企業,市民等から持ち込まれ る様々な生き物の種類同定,食品に混入した昆虫や異物の 食品中異物検査を行った.また,室内塵のダニ検査,砂場の イヌ・ネコ回虫卵検査等と時代の要請に応えることも大切で あった. 日本脳炎の流行が小規模になり,蚊媒介性感染症の流行が 小規模になるに伴い,害虫の防除はベクターからニューサン スへと移行し,衛生動物の業務も多様化が進んだ.ダニ過敏 症の市民対応をはじめ市街地住宅地でのハチ類の営巣,刺傷 事例も一時,重要な案件であった.夜間,スズメバチの巣撤 去に出かけることもあった.そうした中,1982年,神奈川 県ペストコントロール協会へのスズメバチ駆除委託が始ま り巣とりの除去もなくなった.ハイイロゴケグモLatrodectus geometricus C. L. Kochが横浜港に侵入した際はその対応に追 われた.我が国では,ブユ刺咬による重篤な病気はないが, 激しい痒みや疼痛,刺咬後の腫れなどがみられる.市街地で の刺咬被害はないが,ゴルフ場,山間部の渓流を有する景勝 地での刺咬・吸血被害は深刻である.1980年当初から全国 のブユ分布調査に加わり,本格的な採集調査が始まった. チャバネゴキブリBlattella germanica(Linnaeus)は,一般 的な都市害虫として世界中で知られている.オフィスビル, 地下店舗,飲食店舗,集合住宅など建造物内で繁殖し,衛生 害虫,不快害虫として深刻な問題となっている.環境整備が 進み,新しい殺虫剤の開発でゴキブリの駆除方法も変わって きたものの,抵抗性の獲得もあり駆除は決して容易ではな い.防除を考える上で,ゴキブリの持つ行動習性を知ること も重要であった. ウエストナイル熱侵入危機以降,国・各地方自治体ではい ち早く疾病媒介蚊の生息調査,ウイルス検出等のウエストナ イル熱対策事業を立ち上げた.チクングニア熱,デング熱, ジカ熱等,新興・再興感染症の発生,侵入が危惧される今 日,蚊類媒介媒感染症対策事業の継続は必須となった.そう した事業・研究・調査を始めるに当たって,地方自治体の衛 生研究所(現在では色々な名称で呼ばれている)が担う役割 は非常に大きい. 医動物室の多岐にわたる業務の中から,関わりの強かった 昆虫に関する調査,研究の一端を紹介したい.